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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 56 無くてはならない存在感…

「はい…
 あ、え、と…コーヒーはブラックでしたよね?」

「あ、うん…あ、ありがとう」
 その微かに感じられた敦子の揺らぎの感じに、やっぱり昨夜は夢なんかじゃなかったんだ、と、リアルに実感し…
 そしてまた、再びわたしの女の奥深くが…
 ズキズキ…
 ウズウズ…
 と、昨夜の快感の余韻を秘かに蘇えってきた。

「はい…コーヒーどうぞ」
 コーヒーをテーブルに置いてくれた際、カチャカチャ…
 と、カップとソーサーが微かに震え、その陶器の震える音に敦子の秘かな緊張感が心に伝わってくる。

 だかそんな微かな陶器の震える音により、敦子の精一杯の虚勢という虚栄の想いが伝わり、逆に…
『敦子も必死に昼と夜の心の切り替えをしている、いや、してくれているんだろうなぁ』
 そんな彼女なりの想いが心に沁みてきた。

 そうよ、揺らぎ揺れているのはわたしだけじゃないんだわ、と実感し…
「あ、ありがとう」
 わたしもまだ緊張気味にそう返し、コーヒーを口にする。

「うわぁ、あっちん、このスクランブルエッグ絶品だわぁ、ねぇ、ゆかり室長ぉっ」
 すると、こんな秘かなわたしと敦子の緊張感をスッと軽く吹き飛ばしてくれるように、越前屋さんが明るく言ってきたのだ。

「あ、え、う、うん、ほ、本当に美味しいわ、まるでホテルのスクランブルエッグみたいだよね」
 と、慌ててひと口食べて、そう応える。

「えぇ、そうですかぁ、ゆかりさん褒め過ぎですよぉ」
「ううん、そんな事無いわよ、本当に美味しくて絶品よねぇ」
 わたしはそう越前屋さんに返す…
「うん、あっちん、本当よ、ホントにゆかり室長の言う通りにホテルの朝ごはんみたいぃ…」
 と、越前屋さんが明るく言ってくる。

「うん、そう、本当よ、ホントに美味しいわぁ」
 そしてわたしもそんな越前屋さんに合わせて、精一杯に明るく、そして軽く続けて返す。

「あぁそんなぁ、嬉しいわぁ」

 この越前屋さんの明るさに、わたしと敦子の秘かな緊張感は一瞬にして吹き飛び、緩み、軽くなったのである。

 本当にわたしは、いつもいつもこの越前屋さんの明るさに救われている気がするのだ…

 この越前屋さんという存在感も、わたしにとっては…
 蒼井美冴さんに続いての無くてはならない絶対的な存在といえる。

 あ…
 この伊藤敦子も……だ。


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