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135　律子の心

　そう嫉妬心なんだ…

　あ、でも、いや、嫉妬心とは少し違うような…

「本当は、ここのイタリアンレストランでのお食事だって…」

「あ…うん、す、すまない…」

「え、い、いや、それは、夕食は…
　うん、きっと、接待みたいになるっては思ってましたけど…
　いちおうここのホテルのイタリアンレストランが有名だって…」

　あ、そうか…

「それに…その隣のバーの夜景が綺麗だって…
　だ、だから…」

　そうか、そうだ…
　律子は今日のこの新潟出張を内心楽しみに、そして事前に色々と下調べしてあったんだった。

　それはお昼の新潟駅前での『へぎそば』の老舗有名店が然りであり…

「あ、うん、そうか、そうだったな…」

　そうなんだ、あのゆかりからの深夜の電話の時の場合ともまた違う、いや、違った嫉妬心…

　いいや、違うのだ…

　嫉妬心ではなくて…

　ヤキモチという類の感情なのだ。

　ヤキモチ…
　それは正に律子の本当の年齢にふさわしい、まだ若い28歳というオンナではなくて女性の、いや、女の子に近い感情。

　そして精一杯に律子なりに背伸びをし、虚勢を張り詰め、神経を尖らせながら勤めている常務秘書という仮面を脱いだ、いや、脱ぎ捨てた本来の律子のありのままの姿の想いの感情…

　日本経済を左右しかねない、熱い血脈の遺伝子を持つ女ではなく…
　私という、大原浩一という男を好きに、いいや、惚れてくれている女性の想いの感情…

　これらの想い、思いの昂ぶりによる嫉妬心ではなく…
　私を好いて、愛してくれているが故からのヤキモチという女性特有の感情の現れ、露われなのだろう…
　と、私はハッと気付いたのである。

　だからこその…
　接待の後の余計なおみやげに揺らいだ私への怒りではなく、そして嫉妬心ではなく…
　ヤキモチなのだろう。

　だって現実には私は彼女、竹下雪恵くんには全く手は出してはおらず、しかも、あの夜景を強要されたのも僅かに一時間に満たない訳で…
　さほど悪い事をした、いや、律子に責められる事はしていないから。

　だからこその…

　怒りではなく、嫉妬心ではなく…

　ヤキモチという類のかわいい感情なのだと思われ…

　私はそれに気付いた瞬間の今…

　急に、いや、更にこの律子を愛おしく感じてきた…

「律子…」