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シャイニーストッキング

第3章 絡まるストッキング2 美冴

 17 8月6日水曜日の朝

「あーっ、蒼井さぁん、おはようございます」
 会社のエントランスのエレベーター前で、越前屋朋美が元気に声を掛けてきた。

「おはよう、昨日はカラオケ行けなくてごめんね、楽しかったの」
「はい、楽しかったです、それより体調大丈夫ですかぁ」
「うん、寝たら良くなったわ…」
 昨夜は本当は、例の自律神経の暴走気味になったのを体調不良という事にして、二次会的なカラオケには行かなかったのだ。

「良かったですぅ、それより佐々木ゆかり部長が歌凄く上手でぇ…」
 と、朝イチから昨夜のカラオケの情況を話してきていた。

「ごほん…」
「あっ…」
 すると後ろから出勤してきたゆかり部長が咳払いをしてきたのだ。

「もう越前屋さん、昨夜の話しはやめて、恥ずかしいわ」
 と、苦笑いをしながらそう言ってきた。

「ゆかり部長おはようございます」
「昨夜はカラオケすいませんでした」
 わたしと越前屋さんの二人で挨拶する。

「大丈夫ですか…」
「はい、寝たら落ち着きました…」

 本当は貴女の男と…
 と、一瞬浮かび、罪悪感が湧いた。
 だが、それは決して明らかには出来ないし、する積もりもないのである。

「ゆかり部長ぉ、また行きましょうね」 「もぉ、朝から越前屋さんは元気ねぇ…」
 とにかく彼女がいると場が和む。

 そして仮の準備室の第2会議室に入る。

「あ、おはようございます」
 既に武石健太か出勤していた。

「武石さんおはようございます」
「健太くん、おはよう…」
 わたしは昨夜の電話着信の事にはとぼけようと決めていたのだ。
 だが、健太くんはゆかり部長と越前屋さんが一緒に居るせいかその事には触れてはこない。

「そうだ、上野涼子さんと中島彩美さんの二人はとりあえず、正式辞令が出る明日迄はこっちには来ません…」
 ゆかり部長がそう云ってきた。

「だから蒼井さんは今日は人選を手伝って下さい」
「はいわかりました…」
 ということで業務が始まったのだ。
 そして大原本部長はまだ来ていなかった。

 心の奥には、大原本部長の顔が見たい、会いたい、話したい…
 そんな想いが湧いている。
 だがこの想いは禁断の想いなのだ。

 もし大原本部長に対して正々堂々と、皆の前で、いや、このゆかり部長の前でアピールしたら、全てが壊れてしまう事はわかっていた…




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