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シャイニーストッキング

第3章 絡まるストッキング2 美冴

 16 若さへの嫉妬

 武石健太か…
 本当に一瞬だけ嫉妬心を意識した。

 その嫉妬心は彼の若さに対しての嫉妬心でもある…
 内心その事を自覚していた。

 今朝初めて彼の姿を、爽やかな笑顔を、その軽い立ち振る舞いを見た時から、彼、武石健太の若さに対して嫉妬心を内心自覚していたのである。
 最初は嫉妬心の類だとは思いもしなかった、ただなんとなくザワザワとした想いが湧いたのだ。
 そしてその時は彼の軽い、つまり、見るからに軽い、軽薄そうな、オチャラけた感じに見えた事に対しての軽いイラつきからなのだろと思っていたのだ。
 だが、どうやら佐々木ゆかり部長と大学時代からの直の後輩であるという。

 大学の後輩という事はあの優秀な私大だよな…
 まずはそこが気に留まったのだ。
 ゆかりと同じ優秀な有名私大、それは私自身が偏差値が足らずに受験を断念した大学である。
 
 優秀なのか…
 
 彼の経歴が気になり調べてみると、第1営業部からの第3営業部、そして総合職へとキャリアアップに近い今回の異動の内々辞令、ほぼゆかりの辿ってきた道程と同じなのだ。

 優秀じゃないか…
 
 見た目の軽さ、軽薄さとは真逆の経歴。
 それは私の叩き上げに近い泥臭い経歴とは、まるで真逆なのである。

 そしてそんな優秀さは微塵も感じられない軽さと爽やかさ…
 まるで私の若い時分とはほぼ真逆、正反対なのである、そして、それはある意味私の羨む姿でもあるのだ。
 それらがわかった時点から、私は彼、武石健太に感じたこのザワザワ感が嫉妬心なのだと自覚をしたのである。
 
 現在の私自身の地位、辿ってきた経歴、キャリアは確かに遥かに上であり、彼がこれから、この先にキャリアを積み上げても私の今の地位にまで上がって来れるとは全くわからない。
 だが、私がそこに嫉妬心を感じた訳ではないのである、彼の若さ、爽やかさ、立ち居振る舞い等の魅力と、現在の私自身とを比べてしまって感じてくる嫉妬心なのである。

 つまりは彼を見ると、自身の老いを少なからずとも感じてしまうという事なのだ。

 確かにゆかりとは先輩、後輩だけなのだろう…
 そして蒼井美冴ともたまたま今夜の酒宴で隣に座っただけの流れからの着信なのかもしれない…
 だが、私は確実に彼にそんな類の嫉妬心を感じていたのである。

 適わぬ若さへの羨望なのだ…



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