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シャイニーストッキング

第9章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり

 174 蓮からの電話(4)

「大丈夫だよ、スキャンダルは揉み消すからさぁ…」

「え、いや、そういう意味じゃなくってさぁっ」

 どうやら、過去に、何度となくスキャンダルを揉み消した事があるらしい…
 それも大女優であるママ『三山圭子』の力に依るモノだとは容易に想像がつく。

「だから、スキャンダル雑誌とかは大丈夫だからぁ…
 昔みたいにさぁ『ゆかり姫』と会いたいし、遊びたいんだよぉ…」

 蓮には全くわたしの言っている意味が通じない、いや、聞いていないし、有名俳優としての自分に対する世間の目とか、危機感とかの類いに対する思い等が、全く欠如しているのである…

「……………」
 わたしは呆れ果ててしまい、言葉を失ってしまう。

「ねぇゆかり姫ぇ…また遊ぼうよぉ…」
 そして蓮は、こればっかりであるのだ。

 これが黒歴史的な過去とは全く無縁な存在の昔の男からの誘いならば、こうまで誘われる事にそれ程悪い思いも、もしかしたらしないのかもしれないが…
 蓮は、正に真っ黒な黒歴史の生き証人であるのだ。

 もう…

 今のわたしにはあり得ない存在、いや、大至急に消し去りたい存在なのである…

 それに、本人は全くスキャンダルを気にしない…
 と、言うのだが、わたし自身も世間の目に曝されてしまい、せっかくここまで築き上げててきた出世の道が、瞬く間に崩れるのは必然的であるのだ。

 そしてなによりも、間違いなく、彼、大原本部長の愛情を失うに決まっているのである…

「もうっ、だからぁ、迷惑なのよっ」
 わたしは思わず叫ぶ様に強くそう言い放つ。

「そんなぁ、ゆかり姫ぇ、つれないなぁ…」
 だが、蓮には全く通じない。

「絶対に会わないし、二度と遊ばないからっ」

「ええー…………」

「もうねっ、蓮とは住む世界がちがうのよっ
 もう二度と電話してこないでねっ」
 わたしは一気にそう言い放ち、その勢いのまま着信を切ったのだ。

「あ………」
 切る直前、電話口の向こうから、蓮のそんな声が一瞬聞こえた気がした。

「ふうぅ…」
 再び気持ちが一気に最悪の気分に下がってしまった。

 もう最悪だわ…

 そしてわたしは慌てて携帯電話の電源を落とす。

 さっきの蓮の様子だったら、絶対にまた掛かってくる筈だ…
 わたしはふと時計を見る。

 時刻は午後2時半過ぎ…

 



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