ほしとたいようの診察室
第7章 回想、主治医の苦悩
走り出しそうなのんちゃんの手をしっかり握って、まずは歩道になっているところを歩く。
大学病院の中庭は、意外にも広い。
ところどころのベンチで、休んでいる先生方や患者さんに会釈をしながら、のんちゃんと歩いた。
「どう? お外は?」
歩きながら聞くと、のんちゃんがうきうきと話し出す。
「あのね、おそら、すごくとおいね」
指差したのは、長く尾を引いた飛行機雲。
青空に一筋の線を書くように、それは伸びていた。
見上げると、ふわっと風が頬を撫でる。
そこには秋の涼しさが紛れ込んでいた。
「ほんとだ、気持ちいいね」
のんちゃんにとって、空を見上げることは当たり前じゃない。
幼い横顔に透き通った瞳は、空色に染まって、それがとても綺麗に見えた。
こんなに良い表情をするなら……
病気がこの子の自由を奪っている。
やっぱり、治してあげたい。
主治医として、そう思わざるを得ない。
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