
ほしとたいようの診察室
第5章 プリンを作ろう
「覚えてないかもしれないけど、昔、俺や陽太先生に、『きらい、だいきらい』って言って大泣きしてな」
「子どもの時のことなんて」
反論すると、優先生が遮った。
「そう思うだろ? でも子どもの『きらい』は、小児科医には結構応えるんだよ。それに比べればそんなことなんだよ」
「……なんか、ごめんなさい」
……思い出した。治療から逃げ回って、泣いたこと。嫌って言っても痛いことは続くから、自分の中の最大限の言葉を使って、拒んでいたのだ。
「いいよ、小さいときの話だ。いまは素直にごめんなさいも言える。」
優先生が、わたしの頭をひとつ撫でる。
いつになく柔らかい笑みを浮かべた優先生は、なんだか子どもの頃より優しい気がした。
「早く食べてしまいな。この後もやることあるんだから」
「……吸入、やっぱりしなきゃだめ?」
ウルウルした瞳をわざと上目遣いにしてみた。
「そんな目してもダメだ。今のうちに手つけておかないと、どうなっても知らないぞ」
「でも……やっぱりいやだ」
「いやじゃない。さっさと終わらせる」
呆れたような声で、一喝される。
優先生は優しくなったけど、治療は絶対だった。
