ほしとたいようの診察室
第5章 緊急入院と夏
ここの厨房で作っている病院食は、やっぱりおいしかった。
「……いつも、わたしが作ってるんです。入院患者さんの夕食」
本当は、今日だって夕食を作る側だったのに……入院して、食べることになるなんて。
……想像もしてみなかった。
自分で蒔いた種だけに、悔やまれる。
「そうなんだ」
陽太先生は、病院食に視線を落とす。
「普段は、のんちゃんが作ってるんだね……」
今日は、鯖の味噌煮とお浸し。味噌汁とご飯。
患者さんによって、食事の形態を変える。
……みんながみんな、全部を食べ切れるわけではないけれど、でも、片付けの時に残飯が少ないとうれしい。
誰かの役に立てている気がして。
「今日はきっと、同期の子がつくってくれてるはずなんです。出汁が効いてて、おいしい」
「そっか、だからここの病院食はおいしいって言われてるんだね」
「……陽太先生も食べます?」
いたずらに、陽太先生を見つめた。
陽太先生は、笑いながらわたしの肩を軽く叩いた。
「こら、食べる量減らそうとしてるんじゃないよ」
「えへへ」
夕食をゆっくり食べる。
うれしかったし、楽しかった。
陽太先生と2人でご飯が食べられるなんて。
でも。
そんな矢先に……。
作品トップ
目次
作者トップ
レビューを見る
ファンになる
本棚へ入れる
拍手する
友達に教える