
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
「東雲さん、ちょっと──…」
「どうした?また新しい女の子でも引っかけてきた?」
「人聞きの悪い言い方は、よして下さい。佐伯くんのことです」
ゆいかの斜め後方に、なつるの神妙な声が椿紗に話しかけていた。
魔法少女の業務を終えて、ともに戻ったなずながゆいかにせがんだのは、化粧直しだ。
陽が傾いてももわっとした熱気が地上を覆う七月始め、体感温度などないのだろう活発な怨嗟を封じ終えると、二人して汗ばんでいた。この程度は茶飯事で、多少の化粧崩れはどの季節でも不可避だから、ゆいかは自分の顔を確認するより先に、なずなを向かい側に座らせた。
黒目がちな目に小さな鼻先、ほんのり青い陶磁の頬──…可憐と称するために必要なパーツを盛り合わせたなずなの顔は、見事な配置の神業で、彼女の善良な気性をあり得ないほど体現している。恥ずかしげに目を伏せながら、時折、ゆいかを瞥見する眼差しは、親しみや信頼が交差している。沈黙を埋めるようにしてたどたどしく話す甘い声が、くすぐったいしずくのように、ゆいかの胸底にしたたる。
パウダーを叩き直して、ハイライトを加えて、目元や頬に少し手を加えるだけだ。それでも化粧が完成すると、俯きがちな彼女の背中が丸みを失くす。誇らしげなのは背筋だけでなく、顔まで輝く。
