
副業は魔法少女ッ!
第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世
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周囲は二人連ればかりの洒落たレストラン、テーブル一つ挟んだ向かい側に明珠がいても、ゆいかは上の空だ。
早めのディナーは、見た目にもこだわりを感じる創作料理だ。会話の妨げにならない程度に流れるクラシック音楽を舞う手つきでそれらを味わう恋人は、しっとりとした芯の通った声までゆいかをときめかせる。
とるに足りない雑談や、仕事の話、生まれ育って、彼女が今も暮らしている実家の話。…………。
それらに退屈したことはなかったのに、今週に入ってからというもの、何物にも代え難いはずの彼女との時間さえ、憂悶とする。
「ごめん、私ったら喋りすぎたね」
「えっ、何で」
「ごめんね、ただでさえ急がしいのに、週末休んでもらわなくて。デート、ウチにすれば良かった」
やや硬質なミディアムの髪の天使の輪が、ガラス窓を染み通ってくる茜色を吸っていた。近づかなくても良い香りをまとっているのは見て分かる、その黒髪がよく似合う、明珠の知性溢れる顔が、ゆいかを見つめて眉を下げていた。
「ごめん、あたしこそボーッとしてた。明珠と会えなくちゃ寂しいし、それに仕事は楽しいよ。家で、ちょっと……あって」
「ご家庭、大変なの?」
「あっ、それも違って……」
