
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
なずながアルバイトに復帰した翌週。
今日もなつるは、椿紗の事務所に出勤していた。
一色明珠という、ゆいかの、随分と美人ではっきりとした物言いの恋人が、すぐるを牽制したらしい。なずなの外出制限は解けたが、六月に入って世間が薄着になったここ数日、会う度に、彼女の白肌に浮きすぎる傷が増えていくのが目につく。
「天方さんが心配ですか」
「まぁね」
「何が問題なんですか。どうせ死にはしませんよ。それにあの人は、殺されかけても固有魔法が出るでしょ」
ゆづるの理屈は最もだ。なずなの防御の絶対性は、ゆいかも目の当たりにしたという。だからと言って、それが彼女への暴虐を見過ごしていい理由にならない。
「なずなちゃん、家族も味方しないんだって。幼馴染の八神くんと高校までずっと一緒にいて、親しい人間は彼しかいない。その彼がどんなに間違っていたとしても」
「いいじゃないですか。それで衣食住も保証されて、働かなくていいとまで言われて。痛い目見るくらい、安い仕事です」
「それは──…」
依頼文書のコピーの束から顔を上げて、なつるははたと口を噤んだ。
椿紗は不在だ。他の従業員達もいない今の時間帯、ここにいるのはなつると、女の格好をした男子高校生だけだ。
そのゆづるの顔を見るや、なつるは、自分が当然としている常識を常識と呼ぶことに、酷く違和感を覚えた。
なつるの心中を見透かしてか、ゆづるが口元を歪めた。
