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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は



 こんな例え話に冗談を混ぜられるのも、平和な証拠だ。

 恋人と呼べる関係になれば、どこまで相手を自分のものに出来るのか。

 出来ることなら余すところなく、自身の全てを相手に明け渡したいと思う。だが骨の髄までゆいかを明珠で満たすには、彼女打ち明けられない事柄を隠し持ちすぎた。ゆいかも快活に動き回る彼女だからこそいっそう好きで、必要以上に束縛すれば、その一面が翳ってしまうのも目に見えている。


 湯上がり特有のシャンプーの匂いが濃密になった。ドライヤーを置いた手がゆいかの肩を抱き寄せて、同じ香りをまとった彼女の顔が、ゆいかの耳近くに迫る。


「ゆいか」

 さっきもゆいかを恍惚とさせた指先が、頬を伝う。唇の端に触れたそれが、首筋から鎖骨へ滑った。


「大好きな貴女がここにいて、私を好きでいてくれる。それ以上に大事なことなんか、ないよ」

「──……」

「知らないことの一つや二つ、あっていいじゃない。こまかいこと気にするより、一緒にいられる時間の方が重要」



 胸に堆積していた鉛が剥がれて、落ちていく。

 途切れそうだった人生を、魔法少女という手段で延ばしたゆいかは、人間としての摂理に背いた。嘘とズルとに塗り固めた存在になっても、ただ一つのまごころだけは、胸を張れる。

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