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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は



 息が上がる。脚が痛い。

 こうも危険に晒されていなければ、とっくに白旗を揚げていた。


 人間の肉体が不自由なのだと、一ヶ月振りに身に沁みた。



 ようやく白濁の石が現れると、まるで長距離走を達成した時にも似た解放感が、ゆいかを満たした。


「やっと終わった……」


 スピリットジュエリーもどきをあるべき状態に戻しながら、ゆいかはゆづるを瞥見した。
 元々荒廃していたビルより、彼の方が重症だ。ぶつぶつと呪いの言葉を吐き出す彼に魔力を送ると、激しく上下していた胸が、平常の動きに治まった。



「っ!!」


 内巻きカールの茶髪の女が、目を見開いて辺りを見回す。いや、男か。ゆづるの化粧はゆいかのような職種の人間から見ても非の打ちどころがなく、少なくともバストアップは完膚なきまで魔法少女だ。


「俺……やつらは?」

「終わったよ。有り難う」

「そっか、お疲れ」



 なつるが涙に濡れた一方で、ゆづるは恨みに駆られていた。同じ怨嗟に取り憑かれたのでも、彼らに現れた影響も、回復の速さもまるで違った。

 だが、ゆづるが本当に憑かれていたのには違いない。それは、ゆいかとてさっき何度か噛まれた時に確信した。回復の固有魔法がなければ、とっくに彼らのようになっていた。



「じゃ、俺は帰ります。それは届けておいて下さい」

「ゆづるくん、待って」

「何ですか」



 なつるにしては厳しい声が、ゆづるを止めた。

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