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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は



「ハァッ……ぐぁ……ォ"オ"ォ"ォォオ"……」


 目を剥いて、涎を垂らしたゆづるの口は、途方もない恨みを代弁していた。


「殺してやる……ごろ"じでや"る"ぅ"ぅ"!!」


「たぁあっ!!」


 ゆいかは小枝を長いロープに変形させて、黒い物体をゆづるから引き剥がしながら縛っていった。動作を封じられた怨嗟の群れが、必死にもがく。だが、木には魔力がこもっている。ゆいかが命令を解かなければ千切れない。


「ぁあああっ……ぐは!」


 ゆづるが襲いかかってきた。ゆいかは木の葉を刃に変えて、彼の着ているサーモンピンクのワンピースのあらゆる部分を、石灰の地面に縫い留めた。

 怨嗟に触れた人間は、負の感情に支配される。ただし魔法少女は例外で、彼らの干渉を受けないはずだ。特殊な例ということもあり得るが、ゆづるは本当に取り憑かれたのか。意識の片隅に疑念がよぎる。

 ゆいかはなつるの拘束を解いた。彼女の方は、黒い塊が水溜りのように溶けていくと、虚ろだった目の焦点がすぐに合った。


「はぁっ、さんざんな目に──…ゆいかちゃん!」

「はい!っ、ツ……とりゃあっ!」


 背後で舌をだらんと伸ばしていた塊に、ゆいかは刃物の性質を持たせた小枝を突き刺す。


「右。次は、斜め左下」


「了解です、く……タァァアーー!!」


 中学生らを離れた怨嗟の群れが、ゆいかに狙いを絞っていた。

 同胞を薙ぎ倒した当人を危険因子と見做したのだろう。

 ゆいかは、予知を根拠にしたなつるの指示に従って、彼らを確実に減らしていった。鎖や銃に比べれば、植物は軽い。それでも攻撃を重ねる内に、腕が笑い出すような疲労感に引きずられていく。

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