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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は


 なずなが外に出なければ、すぐるは優しい。彼が外出を禁じてから、なずなは学校もアルバイトも休んで、友人達との連絡も最低限にとどめている。

 彼に従っている間、彼もなずなに献身的だ。しかしどんなわがままも聞くと言う彼に、なずなは最も切実な望みを伝えられない。

 いつまでもこうしているわけにはいかない。扁桃腺の腫れを騙って、今のところゆいか達の見舞いは辞退出来ているが、学校に関しては出席日数の心配もあって、一度実家に連絡を入れた。

 たかが一週間、行動の自由がなかっただけだ。親達はすぐるの肩を持った。

 久し振りにアルバイトの休みが続いたのだろう、許してやれ。すぐるにそこまでさせるほど、お前は遊び歩いていたのか。…………

 物心ついた頃には家族ぐるみの付き合いだったすぐるを、なずなの両親は彼らの娘以上に信頼している。なずなが単位を落として学校を卒業出来なかったとしても、優秀な彼がどうせ面倒を見るだろう。将来の期待さえすぐるに傾けている両親から、当然、なずな達の現状に介入しようという気は起こせなかった。


「ねぇ、すぐるくん」

「ん?」


 運ばれてきたワッフルを切り分けながら、なずなは今日だけで何度頭の中で反芻したか分からない言葉を、喉の奥に準備する。だがすぐるが顔を上げた時、それは勇気とともに粉砕した。


 明日から学校に行かないと。


 ただそれを口にするだけで、シンデレラの魔法が解けるようにして、すぐるの優しい顔が消える。

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