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副業は魔法少女ッ!

第2章 魔法少女の力




 瞬く間だったなつるとの時間に後ろ髪を引かれながら、見慣れたマンションの軒先で、なずなは彼女の車を降りた。

 八神の表札の出た部屋に戻って扉を開けると、通路の夜闇に雪崩れ込んだ強い光に背筋が凍った。


「なずなか」

「うん……ただいま」


 そう高くもない、どちらかと言えばすぐるの声が、鼓膜を抉り出すような痛みをなずなの耳にもたらした。


 ゼミの飲み会ではなかったのか。夕飯はいらないのではなかったか。


 あらゆる疑問がなずなの頭をぐるぐると巡る。

 框に荷物を置いて、靴のストラップを外す手が、既に震え出していた。

 ぞわりとした気配は、なずなにそれらしい言い訳を思案させる余裕も与えず背後に迫った。


「どこ行ってたの」

「コンビニ……」

「一時間もコンビニに行くヤツがいるか、阿呆!」



 聞けば、飲み会はグループ講義が終わった足で店に移動したため、初夏の明るい時間には帰路に着いていたらしい。
 すぐるはなずなが帰宅しているものとして、二次会には参加しなかった。それがなずなはいなかったばかりか、学校のあと一度帰った形跡もなかった。


 こんな時間までどこにいたのか。さっきベランダから車の止まった音がした、まさか誰かに送らせたのか。


 すぐるの詰問に、なずなは首を横に振る。

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