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副業は魔法少女ッ!

第2章 魔法少女の力



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 途中で車を停めたなつるは、なずなを連れてカフェに入った。

 夕餉時、周りの飲食店はどこも賑わいを見せていたのに対して、波の去ったあとのようなコーヒー専門店は、落ち着いて過ごすに十分だった。


 アイスティーで喉を潤して、オープンサンドを頬張りながら、なずなはなつると談笑した。

 初対面の印象は、謎に包まれた占い師。だのに実際に話せば話すほど、彼女もどこにでもいる人間だったのだという心象が、なずなの中で強まっていく。


「本当に、安心しました。アルバイトなんて初めてで、もっと失敗したり怒られたりするものかと思っていたので……」

「それで大学生にしては珍しく、サークルだけだったんだ。万が一ミスがあっても上の責任だし、新人ちゃんがいきなり怒られたりしないよ。好きなことすれば良かったのに」

「今してます」

「そっか、憧れだったものね」


 頷いて、なずなは左手中指に煌めく青い石の硬質な冷たさを確かめる。

 天然石の専門店で訊いても、この石の学名は分からなかった。何かの石であることは間違いないらしいそれは、なずなが魔法少女という文字通り夢を叶えてから、いっそう特別なものになった。

 椿紗の雇用下にいる魔法少女は、彼女の事務所と契約すると、魔力の媒体が必要になる。魔力の媒体は普段から持ち歩いている私物が好ましく、思い入れ深い品であるほど、魔法少女としての力が扱いやすくなると言われる。

 なずなは、このリングに魔力をもらった。小学生高学年の頃には既に身に付けていた、どういうわけか落ち着く青い石は、なずなに魔法少女であることを自覚させるものになって以来、前にも増してかけがえない宝物になった。

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