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副業は魔法少女ッ!

第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世




 明珠と初めて話したのは、秋の始めの飲み会だ。厳密には、春の新人歓迎会。現場と本社、昨年は二度に分けて行われた。
 その時は、話した内にも入らなかった。可愛い服ね、どちらのお店?という社交辞令的な質問に、Emily Temple Cuteです、と答えただけだ。続いて二言三言の問答はあったが、ゆいかにしてみれば全く話し足りなかった。

 全く話し足りなかったのに、振り返ればあの時、ゆいかは既に一色明珠という人物を、女として知ったつもりになっていた。美しい代表取締役という雲の上の存在を、久しく心揺さぶられた相手として認識したのだ。

 明珠の目に、花のような残像を焼きつけたい。彼女の印象に残りたい。彼女にいじらしく思われたい。……

 世界の中心がまるで明珠、進学や入社試験の面接でさえ味わわなかった類の緊張が、常にゆいかを雁字搦めにするようになった。そのくせ彼女をどれだけ意識したところで、ゆいかの頭を渦巻くあらゆる可能性は、どれも柔らかな空想に過ぎず、現実の距離は変わらなかった。


 春より交わした言葉は多かった、それだけで浮かれる思いだったゆいかを、彼女から二次会に誘ってきた。

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