
副業は魔法少女ッ!
第8章 正義の味方のいないご時世
ゆいかを笑顔にさせられるなら、何でもしたい。彼女と共にいるために、自分の命が削れたところで、何の問題にもならなかった。だから魔法少女になった。人間として道理に外れても、構わなかった。少なすぎる彼女の時間に自分のそれを分け与えて、なつるの透視に頼りながら、平均より短い時間を彼女と共有するつもりでいた。
息も、脈も、鼓動も感じられない。
病院に連絡を入れかけた手を止めたのは、ゆいかの両親が、明珠にそれを禁じていたから。
どんな医師にも手の施しようがなかったらしい。苦しみを延ばさないでやってくれ──…それが彼らの、娘との最後を過ごしたいと願った明珠に出した条件だった。
「…………」
魔法少女を辞めなければ、こんなことにはならなかった。
世界を絶望が覆っても、ルシナメローゼが支配しても、ゆいかさえいれば、明珠は光を見出せていた。
魔法少女は、正義の味方ではない。誰かれ構わず救いたかったことなど、一度もない。
「世界が守られたって、貴女が救われなくちゃ意味がない。貴女さえいれば何もいらない。簡単なことだったのに、……」
魔法少女達は、選択を誤った。東雲椿紗が正常だった。
本当に眠っているだけのようにみずみずしく柔らかな姿のゆいかを抱き締めて、彼女の左手薬指に嵌めた石を撫でる。
時を戻せる魔法が欲しい。彼女が得手としていたような、せめて回復の力があれば。
何もかも"なかったこと"に、なれば良いのに。
