
副業は魔法少女ッ!
第8章 正義の味方のいないご時世
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「ゆいかっ!!」
胸騒ぎが押し寄せても、明珠は不吉な予感を度外視してきた。
彼女の視線を感じた今朝、覚醒しても、しばらく眠った振りを続けた。そんな明珠の寝顔を盗み見て、唇を塞いできた彼女。聞き上手でよく話して、どこででも見られるような海の景色に、大袈裟なくらい喜んでいた。なずな推薦のホラー映画に怯えながら、顔に出していないつもりか、強気な調子でつぶさに感想を口にしていた。
こんな日が永遠に続くものと確信していた。
婚約指輪を渡したのは、最後の思い出を飾るためではない。
「っ……ゆいか……ゆいかぁ……」
さっきまで言葉を交わしていた。たった今まで、彼女の息を感じていた。
このところ食欲のなかった彼女は、ディナーの相談より肌の手入れの話題の方が楽しめるだろうから、導入したばかりのケアコスメを部屋に持ち帰る手筈を立てていた。バスタブには摘みたての薔薇。今朝から顔色の良かった彼女は、水面を埋め尽くす鮮やかな色に囲まれて、もったいないと困憊しながら、甘い香りに目を細めるに違いなかった。
