
副業は魔法少女ッ!
第8章 正義の味方のいないご時世
浜辺に散らばる人々は、多くが、きっと何でもない日常のひとこまにいる。
何でもない日常も、彼らに注ぐ空の色も、打ち寄せる波まで、眩しい。
美しいものだけの織りなす中で、ゆいかは明珠のキスを受けた。
ここ一年交わした中で、これ以上になかったほど長い。離れかけた唇を追って、今度はゆいかからキスを重ねる。同じ繰り返しを彼女にねだる。唇だけでは足りない。もっと彼女を感じたい。彼女に満たされて、愛おしさに窒息したい。
「…………」
今という瞬間の終わりはいらない。
だのに、まだ陽も落ちきらない今から、眠気がゆいかを引きずろうとしている。今朝、早く目覚めたせいだ。
「ここ、潮風が気持ちいいね。眠たくなってきた」
「中、入ろっか」
「ううん、すぐ起きるから。少しこうしていたいだけ」
テーブルの側の椅子に移って、ゆいかは明珠の肩にもたれた。
そう言えば明珠の固有魔法だけ、結局、不明瞭だった。回復系と推測出来る節はあっても、はっきり確かめられたことはなく、予知なども違う。
光だったのではないか。
彼女は、ゆいかの光だった。ルシナメローゼの最後の日、彼女が世界を照らしたように、ゆいかの世界をより鮮やかに輝かせたのは、彼女だ。
「明珠って、女神だよね……」
恋人がこんなことを呟けば、寝ぼけていると笑うだろう。
だが、ゆいかの頭上に、そんな声は降らなかった。何か囁いてくれている。ゆいかを呼んでくれている。
少し眠るだけのつもりだったのに、夢心地に勾引されて、もう彼女の声も聞き取れない。
