
副業は魔法少女ッ!
第8章 正義の味方のいないご時世
自然の色彩を借りた砂浜は、美しい。触れれば消える、宝石を浮かべた海の水面も。
だが、細身ながらほど良い筋肉を感じさせる曲線美を包むシャツ、同色の白いマーメイドラインのスカートを合わせた明珠に注ぐ茜色が、何よりもゆいかの目を惹いていた。これ以上に美しい色があるとすれば、もう彼女自身だけだ。
恍惚と真横の彼女を盗み見ていたゆいかの目に、青い光が差し込んだ。
それは、小箱に納まっていた。多角形のハート型にカットされた淡い青を帯びた石は、銀色の炫耀を放つ白が装飾している。
誕生日はまだ先だ。
ゆいかの左手を、明珠がごく自然な手つきで持ち上げた。近くの丸テーブルに小箱を置いて、彼女が、その見たこともない輝きの石を載せたリングを、ゆいかの薬指に嵌めた。
「断り入れなくて、良かったよね?」
「…………これ」
つややかなプラチナはひんやりとした重みがあった。それでいて温かい。
忘れているはずがない。永遠の愛を意味する石は、彼女と交わしたかった未来そのもの。
「有り難う。でも、……」
ゆいかは、首を横に振る。
「最後まで時間をくれて、本当に嬉しい。有り難う。幸せだよ。でも、もう満足」
「サイズはゆいかに合わせたんだよ。最近、ちょっと有名人だし……返品したら、妙な推測される」
「…………」
突き返しても、明珠が受け取らないのは予想がつく。
ゆいかがいつまでここにいられるか、分からなくても。
