
副業は魔法少女ッ!
第8章 正義の味方のいないご時世
ゆいかは明珠と海を歩いて、今や生活空間として定着した客室で、なずなに勧められていた映画を観た。普段の彼女の好みからは想像つかない内容だったが、映像美で定評のある監督の名前がエンドロールに流れた時、腑に落ちた。
広間のバルコニーに出ると、さっきまで世界に君臨していた太陽は、地平に沈みかけていた。茜色の空を映した大理石の小スペースから、昼間に歩いた浜辺が見える。
打ち寄せる波が、ダイヤモンドを弾いているようだ。こう遠くからでは作り物に見紛う人影は、白い砂浜に散らばって、まるで美しいチェス駒だ。風の音は強いのに、ゆいかは、明珠とたった二人きり、世界の果てに足を踏み入れた錯覚に陥る。
柵に上体を預けていたゆいかの腰に、明珠の腕が絡みついた。
「あの約束、覚えてくれてる?」
「何だっけ」
「あの、一番大事な……」
この事業が成功したあと、やろうとしていたことは尽きなかった。気になる店、観たい祭り、行きたい国……。ゆいかの好きな店の洋服と、彼女のそれとを贈り合いたいという話もしていた。
特に大事な約束も、あったと思う。どれも捨て難い未来の計画だったから、一度で的を得られる自信は、五分五分だ。
