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副業は魔法少女ッ!

第8章 正義の味方のいないご時世



「ゆいか、そんなに見てきたら眩しい。貴女の目、キラキラだから」

「ラメが思ったより多かった?明珠にしては珍しい」

「真面目に口説いてるのに、雰囲気読んでよ」


 笑い合っていたところに、カラフルなフルーツの乗ったパンケーキタワーが届いた。取り皿二枚と、飲み物も二つ。


「紅茶は……」

「はい」

「有り難うございます。社長はカモミールティーでお間違いありませんか」

「ありがと」


 パンケーキを切り分けるためのナイフを握ったゆいかは、我に返って手を止めた。


「言いにくいんだけど、明珠、全部食べてくれる?」

「胸焼け?フルーツなら平気?」

「……あのね、……」


 このところ、水でも身体が異物とみなす。

 だが、明珠と食卓に着いたのは久し振りだ。彼女は気付いてもいないだろう。ゆいかが頻繁に発作を起こしている認識くらいで。

 ゆいかが説明しあぐねていると、彼女が力なく笑った。


「お腹空いたら、何でも作ってもらうから言って。それと、いつ倒れても介抱するし、ゆいかは何してたってどんな風になったって、私には可愛い綺麗、しか感じさせないんだよ」

「…………。うん、有り難う」


 アールグレイは身に染みる。味のついた飲み物が、今朝は美味しい。それがせめてもの喜びだ。


 魔法少女に戻りたい。特別な力はいらない。ただ、平凡な日常が欲しい。

 あの時、魔力を解放すれば、こうなることは聞いていた。なつるの予知があったから、驚かなかった。しかしゆいかが明珠から吸い上げた時間は彼女に戻らない。戻らないくらいなら、あの頃、二人で夢見ていたように、同じ日に、長い眠りに就きたかった。…………

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