
副業は魔法少女ッ!
第8章 正義の味方のいないご時世
僅かにでも魔力が残っていれば、一日だけ、当たり前の日常が欲しい。
当たり前などあり得ない。回復魔法を使いたいと願う時点で、傲慢なのに。
そうした思いを巡らせながら眠ったたゆいかは、翌朝、清々しい気分で朝を迎えた。明珠より先に目が覚めたのも久し振りだ。彼女の寝顔を見つめる内に、花に引き寄せられる蝶のように、その唇にキスしていた。涙が溢れる。体調が良くても悪くても、結局、泣くのか。
こよなくゆいかを感動させる唇に、最近は軽く触れるだけだ。魔法少女でなくなったあと、ほとんど身体も重ねなくなった。一つになる前に、ゆいかが発作を起こしてばかりいて、次第に彼女が気を遣って触れてこなくなった。
大きな力を手に入れれば、代償がつきまとう。
いつかなずなの付け焼き刃の知識から、ゆいかは魔法少女の物語の定番を聞かされた。
自分の身体が自分のものでなくなっていく苦しみを、代償とは思えない。二週間が二年になったし、神を呪った二年前とは違う。奇跡を知った今だからこそ、ゆいかは、今も奇跡の延長線上にいる。
起床した明珠に化粧をねだって、洋服を選び合ったあと、いつかゆいかが意見を出したラウンジで、朝食をとった。
ちょうど日陰になるテーブル席から、朝陽を受けた花園が見える。この眺めを理想としたのに、いざここで過ごすことになると、向かい席にいる美女ばかりを見てしまう。
