
副業は魔法少女ッ!
第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世
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天方なずなの身の上話が、ゆいかにはにわかに信じ難い。
愛していると言いながら、手を上げる。そんな人間がこの世に存在していたとは。
平穏な夕餉時に突如、非日常を持ち込んだ当人は、ゆいか達が食事を終えても、まだ蹲っていた。彼女にとって、この程度の怪我は茶飯事で、初めは眉根を寄せていた通行人らも飽きて散らばっていったらしい。
明珠の提案で、ゆいかと彼女、そしてなずなは、近くのホテルにチェックインした。
「本当に有り難うございます。手当も……部屋まで。どうしよう、でも、帰らなくちゃ……」
「実家は?彼の元には帰らせないわ」
「イヤです。すぐるくんがいなきゃ、私の価値なんかない!」
明珠となずなの押し問答も、この一時間内だけで何度目か。
なずなは、見たところ境遇に問題があるのではないようだ。
随所がほつれて褐色のシミが見られるにしても、彼女の着用しているリンゴ柄のジャンパースカートは見るからにほぼ新品で、淡いニュアンスの混じったピンク色の髪は、絹のような手触りだとそのツヤが物語っている。
無惨なのは顔だ。一度溶けたベースメイクは固まって、ファンデーションの皹の隙間を白い地肌が覗いている。ピンクブラウンのマスカラは、濡れた大きな目を囲い、顎が僅かに腫れているのは、ここも狼藉の痕と見られる。とは言え軟膏薬を塗りたくったスカートの中に比べると、まだ見られる。
