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副業は魔法少女ッ!

第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世


「避難してきたんでしょ。なずなちゃんの帰りが遅れただけでそこまでのことをするなんて、器の小さい。それに貴女をベランダに引きずり出して、髪に墨汁までかけようとした。お洋服だって、せっかく可愛いのに汚れて……。すぐるくんは、なずなちゃんに責任とれるの?第一、恋人を鞭打つ人間なんて、まともとは思えない」

「私のせいです。約束も守れなくて、頭も悪くて、頼りなくて、すぐるくんが苛々するのは、当然です」


 すぐるが機嫌を損ねる原因は自分にある、と、なずなの主張は頑なだ。


 職業柄、ゆいかはなずなのような女達を度々見かける。
 容姿や技量を取り上げて、彼女らは自身の短所であればいくらでも並べられるのに、長所になると、途端に思い付かなくなるそうだ。

 同じ努力をしている他人は、もっと結果が出せている。持って生まれたものが劣っているから、いつまでも理想に近付けないのではないか。

 消極的に俯く彼女らに限って、何かに関心を向けた時のエネルギーは、底知れなくなる。


 なずなも例に漏れない。恋人の心ない言葉をそのまま受け止めているにしては、彼女の化粧や髪の手入れ、小物の取り入れ方のセンスは、すみずみまで隙がない。


 つと、明珠がなずなに空腹のほどを確かめた。なずなが口を開くのも待たないで、彼女がショルダーバッグを拾う。

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