
副業は魔法少女ッ!
第4章 想いの迷い子
振り返ると、雨に打たれた仔犬のような双眸が、ゆいかに鋭い視線を向けていた。
本性か作り物か、見分けがつかない。この姿に翻弄されて、なずなは彼から離れないのだ。
寒気もとろける甘い空気を醸しながら、一組の恋人達がゆいか達の脇を通りすぎた。
女の方の、甘えた上目遣いを模倣して、ゆいかはすぐるに距離を詰める。
「八神くんって、最初、猛獣か何かだと思った。それか癇癪持ち」
「お前……」
「思ったってだけじゃん。過去形だよ」
細いおとがいをくいっとつまんで、ゆいかは彼の黒目を見澄ます。ゼリー状の球体の奥を不快の色が満たすのは、四六時中、恋人を監視していなければ気のもたない独善が、彼自身にも向いているからだ。今に触れ合いそうな唇を本当に奪ってしまえば、自己嫌悪で壊れるかも知れない。
「今は一途だと思ってる」
「オレがか」
「なずなちゃんが羨ましくなるくらいだよ。あんなに心配してもらって」
だからあたしのものになってよ。
耳朶に吹きかけた息の中でささめくと、すぐるは拒絶も頷きもしなかった。ただ、ゆいかと次に会う約束を受け入れた彼は、友人と出かける計画を立てるほどには気楽そうな顔をしている。
