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副業は魔法少女ッ!

第4章 想いの迷い子




 すぐるの剥き出しだった警戒心は、年が明けるより早く消えた。

 彼の常軌を逸した自尊心は、都合が良かった。やたら干渉したがって、頭ごなしに友人を庇う部外者から、将来有望な歳下の男に惚れた、ただ迷惑な女。彼の中でのゆいかの位置は、ものの一ヶ月と経たない内に、概ねそのように移り変わったらしい。

 大物達と面識があるのは元交際相手の繋がりで、ゆいか自身はただの事務員。スペックはすぐるの方がよほど高いと、思いつく限り持ち上げて、会えば十五分に一度の頻度でおだてる。そうしたことを続けた甲斐あって、彼は自分を待っているはずの恋人を気にするばかりか、彼女への悪態までつくようになった。同じバカでも、お前の方が気の利いた口をきくんだな。横柄に相好を崩す彼は、今までにもこの先にも、誰かを愛せることがあるのか。

 曲がりなりにもデート中、足を向けるには不似合いな模型の鎮座するショーケースの並んだ中央、ゆいかは巨大な地球儀を見上げるすぐるの横顔を観察していた。


「元恋人は、いいのか」

「すぐるくんこそ、なずなちゃんは?」

「勘弁してくれ。こんな日まであんな辛気臭い顔見るくらいなら、頭おかしい化粧女といる方がマシだ」


 悪意もなく顔を歪めるすぐるは、かつてなずなの髪に墨汁をかけて、彼女のロリィタ服に鋏を入れた。女の過剰装飾を嫌うがゆえの行動は、挙げればキリのない数に上るが、エミリーテンプルキュートくらいのデザインであれば、彼のものさしは派手と判断しないらしい。その代わりと言わんばかりに、彼はゆいかの化粧をけなす。

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