
副業は魔法少女ッ!
第4章 想いの迷い子
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八神すぐるという人間は、至極単純な人物だった。
家で待たせている恋人を理由に、顔見知りの女の誘いを辞退しようとした彼の前に、各界の重役達の集うパーティーの招待状をぶら下げただけで、ゆいかに尻尾を振ってきた。招待状は、明珠が姉から手に入れたものだ。一週間は身につけるものも食べるものも贅沢が出来るだろう金額を、彼の盛装のために投資して、ゆいか自身も、近くの百貨店でファーの長いボレロを買った。
明珠と何度か顔を出した類のパーティーは、今夜ばかりは、まるで罰ゲームの会場だ。何もかもが色褪せて、来客達の洒落た笑顔と煌びやかな装いが、ゆいかの目には、この世の塵芥のように映る。シャンパンを勧められても飲む気がしない。以前、舌鼓を打って明珠とはしゃいだガランティーヌも、見ているだけで胸焼けがする。
ゆいかに話しかけてくる顔見知りの重鎮達に、利いた風な口をききながら、気取ったタキシードをあたかも自前だと言わんばかりに背筋を伸ばして肉を頬張る大学生が、いっそのこと貧弱な豚にさえ思えてくる。
そう、すぐるは貧弱だ。男特有の身体つきではあるにしろ、なずなにあすこまで暴力を振るえるのが不思議なくらい、そもそも筋肉を鍛錬する以前に骨しかない。
