
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
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「それでも、夢だったとしても、ゆづるくんを見ていて分かった。人の愛って、思った以上に重たいのかもね。それにあの人が妹さんを亡くしたのは、どうしたって変わらない。ひよりちゃんがいなければ、とっくに壊れちゃってるだろうことは。今のままじゃあたし、大切にしてもらってきた思い出しかない。まだしなくちゃいけないこと、ある気がする」
「そうだよ。私に偉そうなこと言えないけれど、ゆいかさんは一色さんを諦めたら、きっと後悔する。後悔しか残らないんじゃないかな」
なずならしからぬ物言いだ。
業務のために、例のウィッグを被ったゆづるがスカートスタイルに着替えて出かけたあとの事務所は、彼女とゆいか、そして椿紗だけが残っている。
魔法少女の得る対価の出どころは、例外もあるかも知れない。なずなとすぐるのように生命が行き来しないケースもあれば、ゆづる達のように、事実そのものが消えることも。
それでなくても、ゆいかは明珠を巻き込んだ。彼女の想いを返したい。
書類整理を進める片手間、従業員らの会話は耳に入っていたらしい雇用主の後押しもあって、夜、ゆいかは明珠を呼び出した。
「明珠……っ」
涼風が、羽のように絡みつく。彼女と初めて話したダイニングバーの前は、あの日も、こんな眺めだった。
どことなく感傷的になる早秋の匂いに酔って、ゆいかは自分と同じほどの背丈の──…それでいて同じ生身であるとは信じ難い、美しい女の手首を握った。
胸が迫る。それでいて途方もない安らぎが総身を潤す肌触りが、ゆいかを恍惚とした心地に引きずる。何故、こうも否定し難い欲望を、封じられると思ったのか。…………
