
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
「…………」
「残酷だと思います。葉桐さん、この仕事してなきゃ病死だったんですよね。貴女の増やした命なんて、一色さんの寿命からすれば、多分一瞬の割合くらいですよ。たがだか数ヶ月を一色さんに返したところで、貴女の病気が再発したら?それから先、あの人は、無駄に長い今後をたった一人で送ることになります。下手したら追いかけるかも知れません、俺がそうしようとしたように」
ゆづるが何を言わんとしているか分かった。
ゆいかは、彼が味わったばかりの別れを明珠に強いようとしているのだ。
もっとも明珠とゆづるでは、境遇が違う。恋人の存在がどれほどのものか差異はあるにせよ、命を売り物同然に見ていたような彼の方が、死への免疫は低かったのか。
ところで彼の口振りは、些か違和感があった。まるで過去でも語る調子だ。それにゆいかが気付くより先に、やはり顔色の良い彼が続けた。
「ちなみに、ひよりは生きていました」
「えっ?!」
「あの待ち合わせの昼間に戻っていて……夢かと思ったんですが、スマホ見たら、あの日の日付で。今度は、ひよりが来ました」
だとすれば、ゆづるだけ時を遡ったことになる。しかしここにいるのはゆいか達と同じだけの月日を歩んだゆづるで、時間が逆行した心当たりもなければ、そうしたニュースも聞かなかった。
ゆいかは、だんだん自分自身の記憶の方が間違いだったのではないかという認識に引きずられていく。彼の恋人が通り魔に遭った報せこそ、夢での出来事だったのだ。
「そう言えば……何で私達、ひよりちゃんがあんなことになったって、信じ込んでいたんだろ?」
つと、なずなの言った通りな気がした。
ゆいかは信じ込んでいただけだった。実際、ゆづるが向けてきたLINEのトーク画面は、ひより本人の写真が昨夜の時間で届いている。
あの日、何も起きなかったのだ。ひよりの死は、縁起でもない思い違いだ。
