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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は



「そんなこと聞いたって……気持ちは嬉しいけど喜べないよ……」


 運命だの唯一無二だのに無邪気な憧れを募らせられるのは、きっと恋に触れたばかりの人間だけだ。

 この感情は、恋と呼ぶには重すぎる。恋しているのは恋ではない、明珠という一人の相手だ。

 夏前からほぼ口を利かなくなっていたゆずるに、そうした鉛のような胸の内を披露する機会が、数日後、ふとした拍子に訪れた。

 明珠と元の関係に戻るか否か、ゆいかは答えを保留した。そのせいで彼女とも顔を合わせづらくなり、終業後、消去法でなずなに会いに椿紗の事務所を訪ねた時、偶然、彼が居合わせたのだ。

 十七歳という少年でなくても耐え難いだろう別れを続けざまに味わった彼は、辞表を出すのも時間の問題だと、なつる達が噂していた。少し前、ゆいかが遠目に見た彼は、本当にこの世の人間かと疑いたくなる顔色だった。元々、少女の装いをしても違和感なかった肉体は輪をかけて痩せ細り、白い顔は不健康な色の唇が完全に生気を失くしていて、ふらついた足取りはいつ転んでもおかしくないほどだった。

 それが今日、彼は以前の状態に戻りかけていた。本調子とは言えないにしても、時の流れは、やはり別れの傷をやわらげるのか。


 溢れ出す感情は、まるで蛇口だ。ゆいかの喉を奔流した。


 話し終えると、いっそう俯きを深めたなずなの隣で、ゆづるから、彼特有の小生意気な溜め息が漏れた。

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