
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
「ぐォおオオオオオォァ…………」
聞き慣れることなど先にもない、この世のあらゆる負の感情に匹敵する呻吟は、ゆいかの頭に直接響き渡っているようだ。白銀色のばら鞭が、黒より闇深い塊を打って、まるでそれらを浄化する。天の川にも見える鞭先が、触れた部分から黒い怨嗟を溶かしていく。
「ァッ」
「明珠!」
分裂した黒い影が蛇の形状に変化して、明珠の手足に巻きついた。
目先の女が本当に明珠か、混濁としたゆいかの胸中が、彼女の幻覚を呼んだのか。こんな不可解も起きているのだ、いっそ夢ではないかという可能性も頭を掠めた時、つと、脇を横切っていった会社員の煙草の匂いが、ゆいかの気管を刺激した。妙に現実味の強いそれが、幻覚やら夢やらの空想をかき消す。
四肢を拘束されたはずの明珠は、手品から抜け出す具合に、黒い蛇の影を薙ぎ払っていた。更に、一度分裂したそれらが元の個体に戻る前に、彼女が例の鞭をひと振りすると、星の流線が大きく広がって、慄く蛇達を焼き尽くした。
残ったのは、罅の入った電柱や道路標識、割れた瓦礫だ。車が少しぶつけたか、せいぜい経年劣化と推測出来る程度である。ヘルメットを抱えて喧嘩していたグループの方は、怨嗟が乳白色の石になるや、全員、人間が変わりでもした風に柔和な顔を浮かべていた。
