
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
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突然、クラクションが鳴った。
前方につられてタクシーも急ブレーキがかかり、揺れの弾みで、ゆいかは明珠に倒れかかった。
「申し訳ありません、お客様、お怪我はありませんか」
「何があったんです?」
フロントガラスを覗いた明珠の視線を追う。すると、車道脇のラバーポールを跳ねた自家用車の更に向こうで、バイクを降りた数人が殴り合っていた。
煽り運転が原因らしい。見たところ二組で、一方は大学生くらいの男女二人、もう一方は、制服を着崩して派手な格好をした高校生達だ。
見て見ぬ振りをして通り過ぎていた歩行者らも、やがて遠巻きに彼らに怯えや好奇心の目を向けるようになり、何人かがスマートフォンを操作し出した。
「警察呼びました!」
「私もです、それと救急車……殴ってる……!」
「おい、誰か止められないか!」
車道の中央にいる十人近くの女と男の目は、血走っていた。その光景に胸騒ぎを覚えるより早く、ぞっとする類いの瘴気がゆいかを襲った。
「ゆいか、近くにウチの直営店あるでしょ。そこの事務所で待たせてもらって」
「何で?」
「電話より、交番に直接行った方が確実でしょう。ゆいかは前にああいうの見て気分を悪くしたって聞いたし、ここは危ない」
それは、なずなと二度目にあった夕方のことだ。彼女が明珠に話したのだろう。
ゆいかに、明珠と話すことは何もない。だが彼女の目が離れた隙に帰ってしまうのも気が引けて、あとで落ち合う約束をすると、タクシーを出て小路に入った。
