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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は


* * * * * * *


 突然、クラクションが鳴った。

 前方につられてタクシーも急ブレーキがかかり、揺れの弾みで、ゆいかは明珠に倒れかかった。


「申し訳ありません、お客様、お怪我はありませんか」

「何があったんです?」


 フロントガラスを覗いた明珠の視線を追う。すると、車道脇のラバーポールを跳ねた自家用車の更に向こうで、バイクを降りた数人が殴り合っていた。

 煽り運転が原因らしい。見たところ二組で、一方は大学生くらいの男女二人、もう一方は、制服を着崩して派手な格好をした高校生達だ。

 見て見ぬ振りをして通り過ぎていた歩行者らも、やがて遠巻きに彼らに怯えや好奇心の目を向けるようになり、何人かがスマートフォンを操作し出した。


「警察呼びました!」

「私もです、それと救急車……殴ってる……!」

「おい、誰か止められないか!」


 車道の中央にいる十人近くの女と男の目は、血走っていた。その光景に胸騒ぎを覚えるより早く、ぞっとする類いの瘴気がゆいかを襲った。


「ゆいか、近くにウチの直営店あるでしょ。そこの事務所で待たせてもらって」

「何で?」

「電話より、交番に直接行った方が確実でしょう。ゆいかは前にああいうの見て気分を悪くしたって聞いたし、ここは危ない」


 それは、なずなと二度目にあった夕方のことだ。彼女が明珠に話したのだろう。

 ゆいかに、明珠と話すことは何もない。だが彼女の目が離れた隙に帰ってしまうのも気が引けて、あとで落ち合う約束をすると、タクシーを出て小路に入った。

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