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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は



 ここが明珠の会社でも、働いていれば気が紛れる。ここにいれば明珠との関わりが身に染みて、雑念が頭を渦巻きやすくなるのはともかく、家に一人でいるより辛くなくなる。

 気心知れた顔触れと過ごす内に、晩夏の日中の長さとはよそに終業時刻が迫るに連れて、帰路に着くのが億劫になる。盆休みより前までは、今頃の時間、手元に置いたスマートフォンがLINEの受信通知を知らせてくるのを楽しみにしていた。


 普段はバス通勤の田中が今日は電車だという理由から、途中まで一緒に帰らないかと提案してきた。ゆいかは彼女の厚意を受けて、部署からエントランスへ向かう途中、見まがうはずない女の姿を目先に認めた。


「ゆいか」

「あ、……」


 田中という同伴者を盾にして、この場で明珠を避けることならいくらでも出来た。

 だのにその同伴者は、ゆいかと明珠を残して去った。

 ゆいかは、明珠と話すか話さないかの押し問答を繰り返す。

 その間にもすれ違っていく数人の社員らから挨拶以上の眼差しを向けられながら、彼女がタクシーを呼んだ。

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