
副業は魔法少女ッ!
第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世
「明珠、……」
会社では、今も社長と呼んでいる。しかし業務を離れれば、文字の並びを喉元にしたためるだけで胸が忙しなくなる名前を呼んでも、あとに言葉が続かない。
…──葉桐さんのこと、可愛いと思っていたの。と言ってもプライベートな時間に付き合ってもらっているのだから、口説かれたくなければ帰って頂戴。
秋の飲み会で二人して社員達の輪から抜け出した時、ゆいかは明珠に告白された。彼女に酩酊の気配はなく、ゆいかが拒む理由もなかった。
魔法にでもかかったのだと思う。人魚姫が足を得たのと同様、一生分の幸福を前借りすれば、代償も大きいのだろう。
ただ明珠の隣に並んでいたいだけだ。彼女の夢を、ともに成就させたいだけなのに。
ソテーを切り分けていた手を止めて、明珠がゆいかに微笑んだ。
何?
やおら首を傾げたような彼女の顔に、ゆいかは頭で何度もイメージした言葉を胸に仕舞った。
「綺麗になりたい人のために頑張る明珠が、大好き。プロジェクト、頑張ろうね」
「そのことー?改まった顔したから、何かと思った」
「うん。だって大好きだもん。綺麗なものを好きな人は、その人自身も綺麗なんだって。見た目だけじゃないよ。明珠の全部が……大好き」
リゾートホテルの完成には、数年かかる。
実現したら、一緒に暮らそう。
つい最近、ゆいかが明珠に告げられたもう一つの計画は、宙に浮いたまま消えるだろう。
もう一度、魔法にかかりたい。高嶺の存在の彼女に近づけた時にも等しい、ありえない魔法がゆいかの時間を延ばしてくれたらどんなに良いか。
つと、変わり映えしない窓の外に、人だかりが出来ていた。ぼろぼろの格好の女の子がうずくまっていた。新たに入ってきた客達が、そうしたことを囁いていた。
