
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
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一方的に別れを望んで、終電もなくなった深夜の帰路に飛び出した。タクシーを呼ぼうと思いついただけ、家に着くまでは冷静だった。
それから数日、虚無に時が流れていったようだった。両親達が不在の昼間に居間に降りては、軽食をとったりシャワーを浴びたりしていたある日、営業や勧誘も顔負けの執念深さで、玄関のチャイムが鳴り続けた。
防犯カメラに映っていたのは、Angelic Prettyの薔薇柄のワンピースが目を惹くピンク色の髪の少女だ。薔薇柄と言ってもデフォルメされた小花柄で、絵本から抜け出してきたようなコーディネートが定着した彼女によく合う。
明珠に会わないよう、彼女のことを考えないよう努めても、魔法少女を辞めることは先延ばしにしている。
寝屋川達の仮説と椿紗の答え合わせが事実なら、ゆいかが明珠と縁を絶っても、今度は家族や友人達、別の人間の命を奪う。
だから椿紗に辞表を出して、なつるに寿命の移し方を教わるなら、早い方が良い。それでも、まだ猶予が欲しい。
「ゆいかさん……」
「…………」
ゆいかは結局、自分に心底心配げな目を向けるなずなを框に上げた。
リビングに通して、彼女好みの茶葉を出して、彼女好みに紅茶を仕上げる。
「はい」
「有り難う。……あ、苺」
「ミルク入れるの、好きでしょ」
「覚えててくれたんだ。それに、濃いめ。まろやかで、でもしっかりしていて、すごく美味しい」
上機嫌な猫のように喉を鳴らす彼女の隣で、ゆいかもカップを持ち上げる。
つと、視界の端に、彼女らしからぬ光が映った。すぐにそれが青い石のリングであると思い出す。
