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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は



 あまりに陳腐な終止符の言葉。


 二週間悩んで出して、言い出すまでにも同じくらいの時間を要した結論を、ゆいかはまるで一瞬の内に、伝えきろうとしている。


「事情があって……明珠を、好きでいられなくなっちゃった」

「え……」

「明珠だけじゃない。これから先、誰のことも好きになれない。なっちゃいけない。だから、最初で最後の思い出、幸せだった」

「待ってゆいか、理由が分からないよ。悩みなら──…」

「相談は出来ない」


 腰を上げた彼女の匂いが自分のそれに触れかけたのを避けて、ゆいかは扉に背をつけた。

 彼女と同じ香りがするのは、同じ浴室を使ったからだ。同じ香りに抱かれていれば、普段より長く口付けられた。普段より彼女の手触りを、進んで確かめることが出来た。待つものではなく、生み出すもの。いつかなつるがゆいかに説いた雰囲気とやらも、気配を現しかけていた。


 それでも、魔法少女が特定の人間を愛することは許されない。


 魔法少女の対価は寿命だ。その寿命の出どころは、奇跡ではなく、受け取る本人の最愛の人か、或いはそれに近い感情を向ける相手の生気だ。

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