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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は



 笙子の逝った数時間前、ゆづるはルシナメローゼに出勤していた。最近、彼女に酷似した病状の患者を治療している病院があるとの知らせを受けたのもあって、少しでも稼ぎを増やしていた。

 今週、魔法少女が二人、退職した。ただでさえ人手の不足していた椿紗の事務所は、仕事が有り余っている。


 魔法少女も治験も、辞めてしまうか。笙子の学費も薬代も不要になったのでは、ゆづるに働く意味はない。自身の学費くらいであれば、身体的リスクの低い、事務などの仕事で充分だ。

 だが結局、ゆづるは続けた。

 父親に振り込む金が減れば、どんな仕事を強要されるか分からない。


 いっそ一人暮らし出来るだけのへそくりを貯めるため、治験は辞めても魔法少女だけは復帰して一ヶ月を経た夏休みの暮れ、二週間振りのデートの待ち合わせ場所に、いつまでもひよりが来なかった。


「何でだよ、ひより……あんまりじゃないか、俺を死なせる気か?だったらお前がそうしてくれよぉぉぉ……」


 慣れ親しんだ温かな家は、ゆづるが現実味を覚えられなかったそれだ。人形のように横たわる、無垢な少女の居場所として相応しかった。

 死に化粧したひよりの遺体に縋って、ゆづるは早く夢から覚めたいと祈る。

 約束の時間を二時間過ぎて、近くのカフェの窓からひよりを探していた時、スマートフォンに通知が入った。LINEを開くと、彼女らしからぬ文体で、電話してくれとだけあった。それを打ったのは母親だった。娘が通り魔に遭って刺されたの。記憶していたのと別人のようだった声は、それでもゆづるに病院名まで告げた。

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