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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は


* * * * * * *

 笙子の心拍に異常な数値が現れたのは、日付が切り替わる直前の深夜だ。

 今夜が峠。

 そう言って電話をかけてきた看護師が話を終えるのを待たないで、ゆづるは家を飛び出した。


 それから彼女が息を引き取ったのは、僅か二時間。

 いくつものチューブに繋がれて、呼吸器で何とか持ち堪えていた彼女は、最後までゆづるを呼びながら、彼女なりの冗談も口にした。

 居合わせたのは、医師と看護師、ゆづるの三人だけだ。
 父親は来なくて良かったと思う。ゆづるが病室を抜けて電話をかけた時、電話口から返ってきたのは、あまりに父親らしからぬぼやきだったからだ。


 死んでしまったらどうするんだ。将来の働き手が一人減る。葬式代ももったいない。


 嫌悪と吐き気に追い立てられるようにして、唯一、頼れる親族の電話番号を押していたが、長い呼び出し音のあと、音声案内が流れ始めた。あんな深夜に、電話に出る人間などいなかった。


 それでも、親族はいないよりましだった。

 葬儀は知識のないゆづるに代わって進めてくれたし、実の父親に代わって、見せかけでも、彼らが笙子のために涙を流した。

 初七日を終えると、父親の顔は晴れやかだった。


 結婚して嫁に行くかも知れない娘を家に置いておくより、今の食い扶持が一人分減ったのだから、喜ぶべきだ。


 周囲から白い目を向けられるだけで済んだのは、夕餉の席で、全身からアルコールを匂わせた喪主が耳まで赤くなっていたからだろう。

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