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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は



 血相を変えた寝屋川が、観葉植物を持ち上げた。鉢を含めて人間の背丈の六割はあるそれが、椿紗を狙う。間髪入れず、なつるが彼女を押しのけた。

 陶器が割れて土が飛び散る。肉厚の葉をつけた枝が、書類棚の中身をかき出す。

 舌打ちした寝屋川が、今度は彼女自ら雇い主に飛びかかった。

 ゆいかは、加勢した本島の腕にしがみつく。すると目にも留まらぬ素早さで、長いフレアスカートに隠れた足が、ゆいかの腹を直撃した。


「葉桐さん!っ、ぅく」

「東雲さん!」


 寝屋川とゆいかの間に割って入った椿紗を庇うようにして、なつるが飛び込んできた。



「ひっ……ぐす……ぅ……ああああ"ぁ"ん…………」



 なずなが泣き出して、もはや感情の捌け口になるなら相手は誰でも構わなくなったような本島の動作をまず止めたのは、なつるだ。彼女の鎖が、黒いスーツの女を覊束した。続いて同じ要領で、新たな鎖が現れて、次は寝屋川の動きを止めた。


「離せ!私達の話が理解出来ないの?!」

「私は理解した。でも、ゆいかちゃん達はまだ。まず聞かせなけば、わけも分からないで、彼女達だって何も判断出来ないでしょう」


 聞き分けのない子供を言い諭す調子のなつるに、二人がようやく頷いた。
 魔法少女の姿に変身していなければ、攻撃の類の魔力は制限される。話すつもりがないなら本気を出す、と、なつるが脅迫まがいの態度を取ったことも功を奏したのかも知れない。

 椿紗が席を外すと、なつるは彼女らの鎖を解いた。

 彼女らの憤怒の原因は、やはり椿紗だ。それにしても、さっきもゆいか達を庇おうとしたあの雇い主が、そこまで他人の不興を買うような行為を働くとは思い難い。


 ゆいかとなずな、それになつるが席に着いた傍らで、寝屋川と本島はそうするだけの冷静さもない様子で、仁王立ちのまま話を始めた。

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