
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
それから二十分近い移動時間、ゆいかはなずなと他愛のない話をした。
入社してからはほとんど新たな出逢いがなかった、同じ部署にも休日まで出かける予定を立てるほどの友人は出来なかったゆいかにとって、なずなは久しい例外だ。
彼女の出してくる話題は、明園や松原達と変わらない。メイクやファッション、スイーツに、彼女の場合はこのところ恋愛話が減っただけだ。だのに電車が目的の駅に着いてしまうのを惜しく思う。目的の駅に着けば、今度は事務所がもっと離れていれば良かったのに、と口惜しくなる。
なずなはゆいかを聞き上手とおだてるが、ゆいかが彼女の機嫌を取りたいだけだ。せめて椿紗の事務所の中では、彼女が真っ先に仲が良いと認識する相手でいたい。そのためなら、あの八神すぐるも肯定出来る。
三ヶ月前に友人達に連れられていった魔法少女の創作イベントが秋にも開催告知が出た、今度は一緒に行かないか。
唐突に思い出した調子でなずながそう言った時、事務所のビルの玄関口に、絹を裂いたような声が響いてきた。
「人殺し!!お前のせいで──…お前が死ねーーー!!!」
「本島さん、寝屋川さん、落ち着いて……」
「黙れ!!お前も共犯か!!全員ブタ箱に入れてやるっ!!!」
もの凄まじい声だった。
怨嗟の中でも、特に厄介な類に憑かれた人間のそれだ。
だが、まるで自我を失くした怒号の合間に彼女らを宥めようとしている椿紗となつるの声から察するに、魔法少女の力が必要な状況ではないようだ。例の瘴気も漏れていない。
