
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
* * * * * *
真珠にも見紛う光をまとうピンク色のシルエットが、夕闇に染まっていた。
禍々しいほどの朱色が西陽だけでないと分かるまでは時間の問題で、ゆいかは転落する小鳥を受け止めでもする素早さで、変身を解いた彼女に駆け寄った。
「なずなちゃん!」
「ゆいかさんっ?お疲れ様ですー」
化粧では隠れきらなかった青痣や、レース編みのボレロのパフスリーブにいっそう引き立つ、白い腕に走ったミミズ腫れ。夢見がちな装束には似つかわしくない彼女の瑕疵に、今しがたの呑気な声も手伝って、いやに背徳的な芸術美を見出しそうになる。
のどかな気流の覆っている住宅街は、まるで脱走した猛獣が暴れたあとだ。荒れ果てても近隣住民の生活に支障をきたさない程度にとどまっているのは、彼女の魔力のなせた業だ。
ルシナメローゼという、民族断絶の無念を抱えた古代住民らの怨念が暴走したのは、この辺りだろう。
案の定、なずなは辺りを見回すと、白濁の石を拾い上げた。
「ふぅ、何とかなった……。一人だったから、危なそうなら出直さなければいけないところだったよ」
「ごめんね、今日は明珠とエステサロンの予約をしていて……」
「ううん、いつも約束しているわけじゃないから。恋人さんは大事だよ。それより、解散早くない?」
「たまには健全な時間にお別れ。明珠、明日も朝、早いから」
「じゃあ、事務所まで届けに行くの、良かったら付いてきて欲しい。ゆいかさんも明日早い?」
