
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
未来を確信したひよりの顔は、一点の曇りもない。
あの箱庭の、無知で無垢な子羊達の群れから抜け出してきた恋人は、当然、未来を明るく思い描ける。将来の夢もなく、顔も知らない母親の代わりに妹を成人させることだけを目標としているゆづるとは違う。ゆづるを想うのと同じくらい、ひよりは彼女自身も大事にしている。
妹の笙子は病気がちだった。
叔母達からの援助には限りがあって、幼少時に入退院を繰り返して、的確な処置もしないまま、有耶無耶にした。家に戻れば、彼女は、ゆづるでも泣くのが当たり前だった父親の横暴に、もっと小さな身体で耐えていた。
今回の重篤が、持病やストレスが起因したものかは分からない。どこかに彼女を救える医療技術はあるかも知れない。だが海外なら保険は利かず、それでなくても、ゆづるは医師を探すどころか、まず金を稼がなければいけない。実の娘が入院しても、父親は酒と女の香水の匂いを振り撒きながら、息子の通帳の残高を抜く。
金も自由も何もない。
ゆづるに与えられたのは、妹との日常だけだった。ひよりの愛情だけだった。前者が失われようとしているのに、誰もゆづるに手を差し伸べない。明日どうなるかも分からない。
だが、ひよりの語る未来は見たい。
彼女やルシナメローゼにいる女達が当然と言わんばかりに語る日常は、ゆづるが望むには分不相応か?
