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戦場のマリオネット

第6章 乙女は騎士の剣を掲げて



「……ごめんなさい。私、……怖気づいてしまったわ。ちゃんと、やる」


「助けてくれ!そうだ、お嬢さん。このことは許す!ラシュレも、逃げたことは咎めない!お前達の身の安全は保証する!これでどうだ、わしを助けてくれ!」


 リディのあどけない目が揺らぐ。しかし彼女は唇を結んで、私に一度、剣を預けた。女神の祈りを捧げたいという。


「有り難う。ラシュレ。貸して」


 伸びてきたリディの手に、私は自分の左手だけをそっと重ねた。

 イリナよりなめらかで小さな手。

 その手を指先に確かめるように撫でる私に、リディが不思議そうな目を向ける。


「リディが、リディのままでいてくれて良かった」

「え……?」


 私はリディの剣を握って、公爵の元に膝をつく。
 陽気で快活だった若い領主は、たった数時間で一気に歳をとったかのようにやつれて、その顔色は今に気を失ってもおかしくほど青い。


「それが普通の……正常な人間の感覚だよ、リディ」

「…………」

「君は愛されることしか知らなくて良い。信じることしか。守られるのも、王女の役目だ」

「ラシュレ、まさか──」

「ここには君と私しかいない。だから、誰も何も見ていない」

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