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戦場のマリオネット

第6章 乙女は騎士の剣を掲げて


 あのあと騎士隊員達は、リディに僅かな身の危険も感じさせず、速やかにここまで連れてきた。彼らは決心がつくまでの時間も必要だろうと言って、公爵を縄にかけたあと、部屋を見張るために出て行ったらしい。

 それから何十分も経つ。

 時間が経つほど、目前にいるチェコラスの男が生きた人間だという実感が、リディの中で増していったのだという。


 私は彼女を胸に寄せて、背中をさする。


「コスモシザの人達が殺されたのも、お父様やお母様が捕まったのも、この人の命令だからなのに……。イリナとラシュレがこんなことになったのだって、この人のお父様がコスモシザを攻めるよう言ったから……」


 咽び泣くリディは、私の胸に温かい湿り気を絶え間なく染みつけていく。

 彼女の鈴を鳴らすような声が、今は少し鼻声だ。


「でも私を見るの。助けてって……反省してるなんて。嘘だと分かっているのに……私の同情は、コスモシザの皆を裏切るのに……。ラシュレ……貴女にも、ごめんなさい……」


 もし分かり合えるなら、首を取らずに済む方法があるのなら、とリディは言う。


 私には、彼女を励ますことしか出来ない。

 陥落の目的は関係ない。戦で国を落とすなら、君主を討つのは次の王のやるべきことだ。それが出来なければ功績を挙げた者達が我先にと名乗り出て、新たな主権を巡って争いが起きる。

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