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戦場のマリオネット

第6章 乙女は騎士の剣を掲げて








 公爵夫人の寝室の先、回廊の最奥の周辺に、数体のチェコラス兵士が転がっていた。

 赤い薔薇の取手が目を引く扉の脇に、リディに付き添わせていた騎士隊員らの内二人が控えていた。


「ラシュレ様!」

「リディは?」

「この中です。我々は見張っていたところです」


 夫人はメイドに引導されて逃げたところを、外でコスモシザの兵が捕らえたという。


 私は扉を開く。使用人が控えるための小部屋の仕切りのカーテンを引いて、公爵の起臥する部屋を覗くと、波打つ金髪と細い肩が見えた。


「リディ」

「ラシュレ……」


 振り返ったリディの顔は、頰の薔薇色が目許にまで広がっていた。
 澄んだ目から、女神の生まれたコスモシザの湖を彷彿とするものが溢れている。大粒の涙は清らかで、塩気もないのではないかと思う。彼女の手に握られた、重たげな、血の温度も知らない剣は、小刻みに震えている。


 何代にも亘って実権を受け継いできたチェコラスの領主は、柱に繋がれ、私達を見上げていた。


「話せば分かる……何が望みだ、コスモシザを攻めたことは申し訳ないと思っている。土地は返す、お嬢さんの親御さんも返す、命だけは助けてくれ!」


「ごめんなさい……私……ごめんなさい……」


 リディがまた真新しい涙をこぼす。

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