
戦場のマリオネット
第6章 乙女は騎士の剣を掲げて
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人の子は親元にいてこそ幸せになれる、イリナには一生懸けて償う。平たく言えばそうしたことを、目前の軍人はいつでも引き金を引ける身構えで、私にまくし立ててきた。
そんな風に、私も考えていた。イリナを手放さなければいけなかった彼らが、どれだけ彼女を待っていたか。リディのために何もかも擲ってきた彼女が、本当なら味わわなくて良かった定めに、どれだけ責め苛まれてきたか。
だが、今は──…。
「貴方は一生懸けて償うだけかも知れませんが、私は一生懸けてイリナを幸せにします」
償いでは誰も何も得られない。
私は、償いなど何の意味も持たないと身をもって知った。
「あれは信心深く繊細な娘だ。親として、お前のような者といさせることは出来ない。お前でなくてもだ。イリナには失くした時間が必要だ」
「そうでしょうか」
「何?」
顔を歪めたジスランに、私は続ける。
「貴方達チェコラスに産みの親を殺されたと聞いた時、私はイリナのためしか祈れなかった。貴方達を親と呼ぶ羽目になったこと、私は感謝しています。ミリアムのような部下にも、家族でもないのに慕ってくれた、アレットのように無邪気な妹にも逢えました」
「…………」
「コスモシザでぬくぬく暮らしていたら、イリナを愛する幸せも知らずにいることになっていた」
私は血のしたたる剣をジスランに向けた。
「貴方を傷つけたくありません。リディを追わせて下さい」
「…………。話は、あの王女が本当に公爵様を討ててからだ」
ジスランが不敵に口角を上げた。
気味の悪い薄ら笑いに弾かれるようにして、私は目的の回廊へ向かった。
