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戦場のマリオネット

第6章 乙女は騎士の剣を掲げて



「あの軍人は、私の右腕みたいなものだった。リディが出れば、彼女はお前達を振りきってでも追ってくる。全力で止めにかかるだろう」

「コスモシザの城で、ラシュレ様に付いていたのを覚えています。こちらから狙撃しましょう」

「ダメ、あの人達に当たったら……」


 リディが騎士隊員の手を制した。この距離では、ミリアムより味方に銃弾が当たるのは明白だ。


「今しかない。彼女に公爵を討たせなければ……」

「……そうね。私がこの国を討ち取らなければ、どのみちラシュレも私もイリナのところへ帰れない」


 苦渋の表情を見せる騎士達に、リディが先へ進む意思を示した。


 かつて部下だった者達が、豪奢な絨毯に転がりのたうつ。既に事切れた亡骸もある中に、チェコラス兵はミリアム一人が残っていた。

 私達が回廊へ出ると、リディに気づいたミリアムは、すかさず彼女に銃口を向けた。

 私は彼女に身体をぶつけて銃を落とす。


「くっ……」


 体勢を整えながら剣を持ち直したミリアムの前に立ちはだかって、私はその一手を受け止める。白刃と白刃が拮抗し、柄に圧力がのしかかる。


「行け!」

「はい」

「ラシュレ、気をつけて……」


 力技を込めたミリアムの剣捌きを弾き返して、私は彼女の行く手を阻む。


「退いて下さい。と言っても、彼女を連れてきたのは貴女なんですね。騎士団の……その格好を見たところ!」

「ミリアム、リディは諦めろ!」


 休む間もなく、ミリアムは剣を構えて振りかざし、私をめがけて刃を下ろす。

 ミリアムの顔には、まるで消耗が見られない。あれだけの兵を相手にしたあととは思えないほど。全ての繰り出しが的を得ている。研ぎ澄まされた彼女の白刃と私のそれが、ひっきりなしに音を立てる。

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